昨日、市美展見学の後、美山方面へ向かったのは、ツーリングするのは、道路が混んでいない篠山方面、美山町といったルーティンがあるからなのですが、ひとつ、これまでもよく訪問しているのに聞けなかった点を、その店で確認したかったのです。ここにある『晴れて丹波の村人に』という本の著者が、ご健在なのか、ということなんです。
著者である森茂明さんは、京都・祇園の花街の生まれ(昭和16年)、立命館大を卒業後、京都市内で釣具店を営んでおりましたが、田舎暮らしにあこがれて、35歳の時に(奥様と子ども4人で)美山に移住。最初は同町の大野ダムの近くに住み、農業をされていました。それから7年後に、かやぶきの里(北村)に近い内久保というかやぶきの民家に移りました。内久保では、由良川のあゆ漁の監視員の仕事を生業としていましたが、安定的な収入を確保するために、民宿をしようということになりました(この本ではここらあたりまでのことしか触れられておりません・・・その後、そば店「もりしげ」を営むことになります)。
この本では、森さんが(村の人からいえば)都会から、こんな田舎にやってきて、どういうつもりなんだ、という偏見の視線をあびつつ、その閉鎖的な村社会の生活を耐え、地域の伝統行事へ参加・協力を続けていくうちに「晴れて」村人として承認(区入り)されるまでの苦労話、家族のこと、自然環境・・・等々を綴ったエッセイ集のようなものです。ある意味、森茂明という人物の生活誌という内容です(少子高齢化・人口減少・耕作放棄地・荒村・・・の今だったら、この当時の村人の対応は考えられません、誰も住まない村になります)。
今から40年前に出版された際、私は、民俗学にも関心があったし、また美山町という田舎の村に「移住」するという京都市民の心情にも興味を覚え、入手しました。文筆業をされてきたわけではないでしょうが、とても書き方、表現が上手く、すらすらと読んだ記憶があります。当時、森さんは美山移住して、約10年後くらいに、この本を出版されています。
私がこの本と出合って、十数年後くらいでしょうか、大学と地域が連携して地域おこし的な事業に参加した頃、町役場の方が美山町を案内してくれたことがありました。その日の昼食に案内していただいたのがこの「もりしげ」でした。囲炉裏を囲んで、一緒に行った同僚と食べた蕎麦の味を思い出すのと、あぁ、ここが森茂明さんの店か、という感激をしたことをおぼえています。
その後、個人的にもちょくちょく食べにいっておりました。最初の頃は、森さんも店にいらしたようですが、ここのところ、見ることもなくなりました。店を切り盛りしているのが、おそらく近所のご婦人方のようでしたので、店の名義を残して別法人に譲られたのかも、とも考えました。が、その都度、気になっていたのに、森さんがご健在なのかは聞けず終いとなっていたのです。・・・昨日、そば定食をいただき、支払いの際に聞きました。残念なことに、8年前に亡くなられていたことが分かりました。
昨日は平日ではありましたが、昼時ともなると他府県ナンバーの車や、バイカー(→私もです)が次々とやってきます。けっこう繁盛しているなと感じたのと、創業者である森茂明さんの名を掲げた「もりしげ」の看板も健在であることを確認し、少し気を取り直して、バイクにまたがる私でした。