2004年から2006年にかけて、右京区広沢にある附属幼稚園で主事をした。その際に、メルポコというシステムを導入して、保護者から好評であった。その年度末にまとめられた、幼稚園の報告冊子に、導入の経緯やメリットなどについて執筆し掲載したものである。
メルポコの導入について
~正確で早い連絡網の活用が始まった~
主事 太田貴久男
はじめに
佛教大学付属幼稚園では、平成18年度より携帯電話のメール機能を利用した連絡システム「メルポコ」を導入した。これまで幼稚園からの連絡事項は、各家庭にある固定電話を使い決められた順に伝えていく方法がとられていたが、「メルポコ」の導入以降、保護者の持つ携帯電話に直接幼稚園から一斉連絡できることとなった。電波状況が悪い等の理由により、完全実施ではないものの、全保護者の97パーセントが利用している。ここでは、そのシステムの導入経過、概要、今後の展開などについてまとめてみた。
携帯電話の普及
平成19年1月末の全国の携帯電話の加入者数は1億22万4500人(普及率78.5%)で、事業者の大量保有もあるだろうが、日本人全体(赤ちゃんも含めた)の7割以上が携帯電話を所有していることになる。「電話」が一家に一台の時代から、一人に一台の時代になってきたわけだ。
現在、初期の「持ち歩ける電話」という意味合いから大きく変化し、インターネットに接続してニュースを見たり、流行の音楽をダウンロードしたり、ゲームで遊んだり、コミュニティで交流したりと、さまざまなことが出来るツール(道具)に様変わりしている。その中でも最も進化を遂げたのが電子メールの送受信機能であろう。一対一のメールのやりとりをしている人から、数十、数百の対象者に同時に配信する機能を使っている人まで、恐らく話し言葉による旧来型の電話利用者をはるかに上回っているのではないだろうか。
平成13年6月14日に「小泉内閣メールマガジン」の創刊号が発行された。当初の登録者数は90万人であったが、その後100万人を超え国内最大級のメール配信として話題となった。ちなみに現在、安部内閣も継承している。一方身近なところとして、京都府は平成17年度より、(1)気象情報 (2)防災情報 (3)要配慮者・支援者情報 (4)防犯・犯罪情報 (5)市町村防災関係情報の各情報について、個別に希望する府民に向けたメール配信サービスを開始している。また府下の市町村でも独自の防犯情報の配信をしているところもある。政府機関から地方行政機関までもが、その有用性に着目し、メールによる情報配信をはじめたのである。
そのような状況のもとで、本園でも電話連絡網に代わる新たな連絡方法として携帯電話のメール配信機能を検討することに至った。
連絡網の現状と導入検討
これまで幼稚園からの連絡は、学年ごと、あるいは通園方法ごとに作成された電話連絡網一覧(の用紙)に従って、園からの伝達事項を、名簿筆頭の保護者から次々に固定電話を使って伝えていく方法であった。この方法では、連絡網の最初から最後までの各家庭が同時間帯に漏れなく在宅している必要があった。一家庭が留守の場合、その家庭を飛ばして次の家庭に電話することになる。場合によってはそこも留守の場合、時間を変えて2回、3回と電話をかけなければならなかった。また幼稚園バスが観光シーズンなどの影響で遅れている場合などでは、運行中に事態が変化していくので、大方の家庭はバス停にお迎えに出てしまっており、よほど後続のバス停の家庭でないと内容が伝わらないことになってしまっていた。実質的に園バスの遅れについては連絡網が機能しないこととなる。
また伝達方法が電話(口伝え)のために、しばしば言葉が変化したり、意味が違ったりすることもあった。「明日の園外保育にはビニール袋を持参してください」という内容が「明日はビニール傘を持参すること」といった内容になってしまい、結果、誤った情報が拡大していく事態を招くことがあった。
こういった問題を解決し、より確実に、早く連絡内容を伝える手段として携帯電話のメール機能の導入を検討したのは前年度である平成17年の秋のことであった。
導入に向けた取り組み
全国の携帯電話の普及率が70パーセントを超えているといっても、佛教大学付属幼稚園の保護者がいったいどれくらいの保有率なのかは、平成17年秋の時点では、まったくわからなかった。育友会の行事や登降園の際に保護者同士が携帯電話でメールをされているのはよく見かけていたので、少なくはないとの感触はあった。しかし導入するのであれば、少なくとも9割程度の所有率がなければ、残りの保護者へは従来どおりの連絡網(固定電話)も併用しなければならず、かえって手間がかかることにもなりかねない。また携帯電話はあっても、本園の所在地である右京区一円で、一部の電話会社の電波が弱い地域が存在しているとの情報もあったので、どんな機種を持っているのか、といったことも知りたいところであった。
そこで11月初旬、全園児の保護者に対して「携帯電話についてのアンケート」を配付して、その動向を聞くことにしたのである。対象者242人のうち、224人から回収(率93%)した。各家庭に携帯電話があるか、という問いに対して97%がある、と答えている。しかも問3では、父が86%、母が93%、という比率になっており、両親ともに所有し、しかも母の所有率の方が高い、という結果は興味深いものであった。また祖父母もそれぞれ10%近く所有されており、一人一台という状況を傍証する結果となっている。問2では、電話会社の比率だが、当時の全国平均に準じているようだが、平成18年の秋より番号ポータビリティ制度が開始されて以降、現在の比率はまた変化しているものと思われる。
それでは、Eメールの機能についてはどうであろう、やはりというか、95%でその機能があると回答し、93%でEメールを使用したことがあると回答している。そして問6で、連絡網としてEメールを利用することについて回答者からの個々の意見を取りまとめた。大方の回答者からは、時代の流れにのっていて良い、うれしい、という意見が出されている一方で、少数ではあるが、気づかないのでは、うまく機能するのか心配、といった不安視する意見や、電波状況が悪い、口頭の方が確実では、といった反対意見もみられた。翌年の1月中旬に、このアンケート結果を保護者に知らせるとともに、個々の意見の中に、携帯電話がどのように利用されるのかに不安を持っている保護者もいたことから、具体的な利用方法を記載した2回目の「携帯電話についてのアンケート」を配付した。ここでは、実際にメール連絡を利用するのか、その意思はないのか、を確認する簡単なものとした。前回のアンケート時に不安を感じていた人も少なくなかったが、その後に説明を受けたりしながら不安も解消していったようで、利用したい、と回答したのは93%という高い率となった。ただし5%ではあるが、携帯電話を持っていない、機能がない、という回答もあった。
以上の2回にわたるアンケート結果をもとに、平成18年度の運用が、当初予測していた90%を上回る利用率となることを確信し、具体的な取り組みを開始した。
メルポコの機能
Eメールをよく使う人であれば、同じ文書を複数の人に向けて1回の作業で一斉に発信する、といった機能を使ったことがあるだろう。テニスサークルのメンバーに練習場所などを連絡するとか、飲み仲間へパーティの案内をするとか、一人一人に個別に送信しなくてもよいのが便利だ。この「メルポコ」も、原理は同じである。幼稚園のパソコンから登録者に向けて同じ文書を配信するシステムである。ただしこのシステムの特徴として、受信者がメールを見たかどうかが、幼稚園で確認できることである。もし登録者全員に必ず知ってもらいたいような重要なお知らせがあった場合、メールを見ていない人については、再度メールを送ることが出来るし、直接家の電話にかけることも出来る。伝わったのか、伝わってないのか、が一覧で分かるところが便利である。これまでの固定電話の連絡網だと、スタートしてから、全員に周知されるまでの過程がまったく分からなかったし、正確に伝わったのかも不明だったことからすれば、随分進歩したことになる。
保護者の登録方法は、①携帯電話から所定のアドレスに空メールを送る、②センターから登録用URL(ホームページ)が通知され、そのページにアクセスする、③事前に各園児に与えられたパスワードを入力して自分のページに進む、④画面の指示に従い、グループ名(学年・通園方法等々)を選択し登録する、という手続きによって完了する。そのようにして登録された保護者に、実際に連絡する方法は、①園から一斉に連絡する(メール送信)、②保護者が連絡内容を見る、③内容を確認したことを通知する(文書内に書き込まれたURLにアクセスし保護者の意思表示をする)、④園が保護者の意思を確認(未確認者の判明)、といった手順となる。これらの機能の他に、幼稚園からの問いかけに対して、イエスかノーか、あるいはAかBか、といったアンケートも実施できる(この機能は未だ利用していないが、100%の保護者が持つ状況となれば、ある設問に対して瞬時に意思確認が可能となるであろう)。
このメール受信によってかかる経費(パケット料金)は、各電話会社のサービスによっても違うが、概ね5~7円といったところである。固定電話で1回かけるごとに10円~30円の電話代がかかっていたことを考えると格段に安くて便利なシステムである。
以上で述べたメール配信システムは、実施側の立場(幼稚園)としても、非常にやりやすくなったことを痛感させられている。そして、このシステムでの最大のメリットをあげるならば、連絡内容の正確さと即時性(速さ)につきる。今年度に入って以降、何度か「メルポコ」にて配信しているが、もっとも有益だったのは、園バスの遅れの通知であった。道路状況は一旦事故や不測の事態が起こると一変する。数分前まで正常に運行していたのに、大型車が故障して道路を塞いだ、コース付近で火事があって近づけない、観光シーズンで渋滞、といった理由で10分、15分と定刻を超過してしまう。これまでだと「何かあったのだろうか?」と心配しながらバスを待つか、あるいは幼稚園に電話を入れて確認するしかなかった。それが「メルポコ」で、「只今、天神川四条付近渋滞で10分の遅れ」と配信すれば、近いバス停の保護者は状況を把握して待つことが出来るし、少し先の保護者ならば、自宅を出る時間を調整しながら待つことが出来る。配信するグループはバスごとに1号、2号と分けてあるので、1号で遅れていても、その後回復することもあり、2号への配信は、遅れる状況を見ながら、さらに「15分」とか「5分程度」といった微妙な配信をすることが出来る。一部の保護者の感想ではあるが、とても便利、という声を聞くと、こちらの労力の軽さに比べて、その有用性の大きさを実感することに面映い気分になる。
最後に
以上、今年度からスタートした「メルポコ」の導入に至る経過と実際の運用状況などを述べてきた。今後の展開としては、前述したアンケート機能の活用や、さらに保護者側からのアクセス(伝達)についても検討を必要としているが、なんでもかんでもメールで済ましてしまう、という世の風潮にも注意しつつ、慎重に進めていくことが大切だと考える。現在、本園では、ファックス(または連絡用紙の手渡し)を使用して、保護者から幼稚園に送迎の変更や欠席報告をしてもらっている。ある幼稚園では、それもメール機能を使って連絡するシステムを採用したと聞くが、まだまだ解決する課題も多いように思われる。風邪をひいて欠席します、というファックスの返信用紙の片隅に「お大事に」という一筆が添えられるような心も、無くしたくないのである。