インターネットの世界には、さまざまなサイトがあり、企業や大学などの団体によるホームページから、自分自身の趣味を披露するような個人のホームページ、掲示板まで、幅広く存在しています。そしてどのサイトにも、その内容、文章に応じて写真画像やイラストが装飾されています。佛教大学内部で活用されている縁SNSにしても、自分のプロフィールのところに自分自身の顔写真やキャラクターの画像を貼りつけることが出来ますし、日記などにも簡単に画像やファイルの添付が行なえます。これらインターネット上で扱われる写真や画像について、著作権法上ではどのように考えればよいのかを、以下述べたいと思います。
インターネットには先述したように多様なサイトがあり、その中で使われている写真には、オリジナルなものから、違法に入手したものまで、さまざまな画像や動画が氾濫しています。例えば、ある人は、自身がファンだというAKB48というアイドルグループの応援ホームページを作ろうと思い、雑誌やインターネットに掲載されている写真や画像を無断でスキャンし、コピーし、それらをホームページに掲載したとしましょう。この場合、例えばそのグループのうちの一人である前田敦子さんの画像(=写真)の著作権は誰が持っているのでしょうか。通常は、撮影したカメラマンか、あるいは所属しているレコード会社、または写真家の事務所などが持っているものと思われます。したがってその画像を著作権者に断りなく取り込んで収集し、自分のホームページにアップロードすることは、違法な行為となります。また著作権の範疇ではありませんが、著名人の場合、その写真自体に商品的な価値が含まれていると解釈され、肖像権(パブリシティ権含む)、プライバシー侵害などの問題も孕んでいることとなります(こちらの権利は前田敦子さんが持っています)。極端な話ですが、そのように画像の使い方、場合により、著作権者から訴えられ、悪質な場合には逮捕されることにもなります。
ただしインターネット上に掲載する目的ではなく、個人的に収集して楽しむ程度であれば、そう問題にはなりません。これらの私的な使用については、著作物の無断利用ができることが著作権法上明記されていることにより可能なのです。例えばテレビ番組を留守中に録画して、後日見る、といったこともそれに該当します。しかしながら、画像をコピーして自分のPCの中だけで楽しむのであればあまり問題はありませんが、一旦インターネット上に画像を置く(詳しく言えば、サーバーに画像がアップロードされ、誰でもが閲覧できる状態にする)ことは、その個人のホームページが、いくら私的で個人的なものであっても、それは著作権法上で免除される私的な利用にはあたらないのです。
一方、自身のホームページの中に、家の近辺に咲いている植物や花を、デジタルカメラで撮影して、その画像をまとめてアップロードし、「季節の花々」といった名称をつけたアルバムとして作成し、メンバーに公開したとしましょう。この場合、撮影したのは自分自身ですので、写真の著作権は本人にあります。したがって著作権上の問題はまったく起こらないことになります。さらにいえば、このアルバムの写真があまりにも美しいということから、知らない人が無断でコピーして、その人のホームページに掲載した場合については、撮影した人の著作権が侵されたことになりますから、その第三者の利用を禁止する権利があります(それが著作権であり、法的に訴えることも可能です)。
そういう法律的な解釈、常識とは裏腹に、実際の現場、インターネットの世界では、違法なファイルのアップロード、ダウンロードが蔓延しており、その数の多さから法的措置も追いつかないのが現状です。しかしそうはいっても、行なわれている行為は違法行為になっているわけですから、何をしても放置されるというものではありません。違法なものは数多あっても、その中でも、こういう事案については厳しく対処される、場合によっては逮捕される、つまり限度を越えて警察が特に目を光らせている事例があります。
著作権法の各条文中には「著作権者の利益を不当に害することとなる場合はこの限りでない」という文言がたびたび登場します。この「著作権者の利益」というのは、何を示すものでしょう。例えば著作物に商品的価値があり、その商品または商品の一部分(著作物)が販売されているものであった場合、その商品の販売によって得られる利益、ということになります(「著作権者の利益」には、そういった経済的利益以外にも、名声や地位といった精神的な利益などもあるかと思いますが、ここではとりあえずそういう場合は除きます)。そして著作者は、その利益を得ることによって、新たな創作活動を行なえる経済的基盤を確保する、というサイクルになります。しかし、もしその著作物、正規のルートで販売されている商品が、複製・コピーされ、本来購入しようと思っていた人々にまで無料で行き渡った場合、当然商品は売れなくなり、販売の利益は著作者に還元されなくなります。この状況を指して「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」と解釈するのが分かりやすいと思います。
そしてこの「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」については、殊にその利益が少なくない場合について、その行為をした者が厳しく罰せられ、損害賠償の請求が行なわれることになります。ゲームソフトなどを違法に入手して、それを不特定多数の人に配布し、また安価で販売して収入を得ようとした場合など、本来正規のゲームソフト会社が販売して収益を上げることが出来た額は、数億円規模と想定され、その損害額も破格です。また公開されている映画を違法に盗撮して、その動画をインターネット上で配信した場合は、映画館に出向いて入場料を払って観る、という行為を阻害することになりますので、これも映画会社の被害額は相当なものになります。その他、DVDやCDの海賊版の販売なども、正規の市場に影響を及ぼします。余談ですが、平成22年に改正された著作権法では、違法と知りながら映画や音楽のデータをダウロードした場合、私的利用であっても罰せられることになりました。
インターネットが普及するまでの時代なら、書物や音楽著作物の複製は、せいぜい数百件、数千件までが限界であり、また被害の実数も把握しやすいものでした(何個配付したのでその分の損害が生じた、という具合に)。しかしインターネットが普及し、デジタルなデータを世界中の利用者が複製出来るようになると、その実数は把握しきれません。数万件から数千万件かもしれないし、億という単位にすらなり得ます。したがってその著作物の単価が仮に1点が1円の値打ちであっても、1億人が見てコピーした場合、1億円の損害、という計算が成り立ちます。何気なく他人の著作物をホームページに貼り付けただけで、1億円の損害賠償を請求される、そんな恐ろしい危険性をはらんでいるのが、今日のインターネット社会だといえます。
こういった違法な行為は、ネットという匿名性の高い性質を使って行なわれるので、なかなか当事者を突き止めることが困難、見つからないだろう、という考え方捉え方があり、そのことにより、ますます犯罪を蔓延させる要因になっているようです(一般的にはそう思われています)。しかしながら、昨今のニュースでもよく知られることとなった京都府警ハイテク犯罪対策室などは、コンピュータやネットの知識に精通した捜査員がいて、その摘発の技術・知識は、世界的にも注目されています。実際に最近、P2Pの技術を利用したファイル交換ソフトによる、違法なデータのやり取りをしている個人を特定し、逮捕に至った事例もあります。
それでは、インターネットに画像などを掲示、貼り付ける際の注意点を、前述した内容と重複するところが出てきますが、あらためて整理して、以下のとおり示します。
インターネット上で注意するべき事柄(著作権に関連して)
①著作権の及ぶ著作物とは、論文・小説・エッセイ・写真・絵画・イラスト・音楽・ソフトウェアなどのことをいいます。
②著作権は、著作権者が持っているので、我々がそれを複製(コピー)・転載・改変する場合は、著作権者の許可が必要です。
③著作物を「私的に利用する場合」は著作者の許可を得ずに自由利用できます。ただしホームページを公開する行為は、私的なホームページであっても、不特定多数の人に公開することになるので、もしそこに他人の著作物を掲示した場合、私的利用の範囲を超えることになります。
④以下の事例は著作権の侵害となります。
・他人のホームページに掲載されている写真をコピーして、無断で自分のホームページや掲示板に掲載すること。
・本、雑誌、新聞などの記事や写真をコピー(またはスキャン)して、無断でホームページなどに掲載すること。
・テレビ番組やレンタルビデオから内容を取り込んで、その画像や動画を無断でホームページなどに掲載すること。
・CDなどの音源(自分が演奏する他人の楽曲等も含む)を自分のホームページのBGMとして流すこと。
・自分のホームページの部分に、他人のホームページに掲載されている動画やページの部分をはめ込んで利用すること。
・芸能人や著名人の写真をコピーして、無断で掲載すること。
・音楽データ(MIDI, MP3等)や唄の歌詞を無断で掲載しダウンロードを可能にすること。
⑤プライバシーを侵害する情報や写真、名誉毀損の文章、わいせつ図画等、民法・刑法上の問題を生じる恐れのあるものは、著作権の問題が無くても掲載してはいけません。
⑥人の肖像を使用する場合には、肖像権に配慮し、掲載(公衆送信可能な状態にすること)の承諾を得なければなりません。
⑦特に芸能人やスポーツ選手などの有名人の肖像(写真)の場合は「パブリシティ権」として、その写真が持つ経済的価値を認めた判例があり、損害賠償などに至るケースもあるので、特に注意が必要です。
⑧他のサイトを紹介する為にリンクを張ることは違法なことではないと解釈されていますが、礼儀上、リンク先の許可を得ておくことがベストです。
⑨悪徳商法(マルチ商法等)などへの勧誘サイト、違法な画像や動画を掲示するサイト、薬物乱用につながるサイト等、大学として相応しくないサイトへのリンクはしない。
⑩平成22年の著作権法の改正により、ネットオークションなどに掲載する絵画などの写真をサムネイル画像として掲載することは、可能となりました。
⑪自分の意見と比較し、また自分の意見を補う目的で他人の著作物を利用することを「引用」といい、これは法律で認められた行為(著作権法32条)であり、著作権者に許諾を求めなくても問題はありません。ただし、引用とされる場合には、以下の項目のすべてに該当する方法をとることによってのみ、認められます。
1.公表されたものであること(未公開の手紙などは不可)。
2.公正な慣行で利用するもの(学術論文等)。
3.正当な範囲であること(報道・研究上等、目的上正当である)。
4.本文と引用部分が主従の関係にあること(従=引用)。
5.かぎカッコや段落等で本文と引用部分を明確に区分すること。
6.引用を行なう必然性があること。
7.改変しないこと(勝手に内容を変えてはいけない)。
8.出所(出典)の明示があること。
⑫この引用は、一般的には学術論文などでの利用が多いのですが、ホームページなどでの利用も可能です。ただし「主従関係」「公正慣行」「正当性」などの観点で、私的で趣味的なホームページでの引用が認められるか、という問題はあります(恐らく認められません)。ホームページでは学術的な発表をする場合などに限られると考えたほうが良いと思われます。