◆口丹波民俗誌◆
当冊子の内容を構成している調査地区は、亀岡市の4ヵ所と船井郡ハ木町の1ヵ所である。広くは丹波と呼ばれる地域であるが、特に京都市(山城国)に隣接し、篠山街道や山陰道へ通じる最初の地域であることより「口丹波」と称されている。亀岡市は、昭和30年1月に1町15村が合併して市制を施行した。市の中心部は、亀岡盆地で、中央を大堰川(上流が上桂川、下流は保津川)が流れ、これに沿ってJR山陰線・国道9号線が京都市と結んで走っている。また国道372号線は、亀岡市より篠山・姫路へ、国道423号線は、豊能・池田へ続いている。
京都市との境に愛宕山がある。山頂の愛宕神社は、かつては阿多古神社と称し、亀岡市内にあった。その関係もあるのか、市内には愛宕山への方向を示す石碑や常夜燈が数多く見られる。また、愛宕講という代参組織も各村にある。(第2章第2節の項参照)
市域開発の歴史は古く、弥生時代に始まり、奈良時代には丹波一の宮、国分寺なども置かれた。また、中世には、織田信長の命をうけた明智光秀が、亀山城を築いて以来、江戸時代には5万石の城下町、また山陰道の宿場町として賑わいをみせていた。近年は、京都市のベッドタウンとして住宅開発が進み、平成10年の統計では、ほぼ10万の人口を擁す中都市として、口丹波の中心地となっている。生業は、かつては農業が主であったが、近年の経済事情により専業での農業従事者は皆無である。調査地の5村においても、農業を傍らでの仕事としながらも、日常では他の産業に従事している者がほとんどである。
調査地は、5ケ村とも市の中心部からは、やや離れた場所に位置している。まず神前・赤熊は、市の西北部にあたる山間の村である。現在の国道372号線(篠山街道)の沿線にあり、農業とともに砥石の産出がある。犬飼・犬甘野は、市の南部に位置し、大阪府域との交易が盛んな地域である。鳥羽は、船井郡八木町に属するが、文化・経済的にも亀岡市の延長線上にある地域である。特に、日本海側から京都への街道沿いの宿場町として、また大堰川の船便の要衝として機能してきた村である。それぞれの村は、その地域的な特性や民俗文化の様相の違いはあるものの、「口丹波」として括っても支障はないと思われる
神前<こうざき・亀岡市宮前町> 地名の由来は、東に谷を下ると、丹波国府(北庄)に出ることより国府先(こくふさき)が神前(こうざき)になったと考えられている。農作は五穀を専らとし、砥石を生産し、現在まで続いている。
赤熊<あかくま・亀岡市東本梅町> 半国山(774㍍)の東北麓、東本梅盆地、本梅川左岸に立地。地名は丹波古生層に特有な赤土の露出が印象的なためにつけられたものであろうといわれている。本梅川が村の北東を北西に流れ、また篠山街道(山陰道)は南東の中野村から当村を経て北東の南大谷へ続いている。
犬飼<いぬかい・亀岡市曽我部町> 霊仙ケ岳(536㍍)の北東麓、犬飼川右岸に位置する。往古、当地に犬飼部がいて、その長の甕襲が飼っていた犬がムジナを噛み殺したときその腹の中から勾玉がでてきたので、勾玉を石上神宮へ献上したことが地名の起こりという。氏神は、隣村の寺村の与能大明神(現与能神社)で、川上村(のちの南条・西条・重利)・法貴・春日部の各村と合わせ、六箇と呼ばれている。
犬甘野<いぬかんの・亀岡市西別院町> 霊仙ケ岳(536㍍)の南西麓、笑路村の西方にある山間の村。さらに西側山続きは摂津の杉原村(現大阪府豊能郡能勢町)。犬甘野は犬飼野の転訛で地名は曽我部犬飼に関連して生じたものという。村内の松尾神社は寛和年間、源満仲が丹波に入った時、勧請したという。毎年7月第1日曜日に御田の行事が行われ、室町時代から行われてきたといわれる。
鳥羽<とば・船井郡八木町> 大堰川(桂川)と園部川の合流地点南西部に広がる村。江戸時代、大堰川の水路が開発整備され、筏の流下が盛んになるにつれ、鳥羽村は中継地の一つとなった。また京街道(山陰道)が村を縦断しており、京からほぼ1日の距離にあたることもあって、宿場としても重要であった。
伝承者一覧
神前 森金之助(男)明治38年5月7日生
森たつ江(女)大正5年6月11日生
森助次郎(男)明治30年2月26日生
赤熊 日下部繁雄(男)明治38年11月21日生
日下部福二(男)明治39年12月5日生
犬甘野 和崎眞一(男)明治34年12月29日生
大年義一(男)明治29年7月12日生
犬飼 福知うめの(女)明治39年2月25日生
山脇安一(男)明治40年11月5日生
鳥羽 田村ヤエノ(女)明治31年11月3日生
山下隆一(男)明治39年12月18日生
市原権一(男)明治38年1月4日生
福田忠雄(男)明治37年10月4日生
参考文献
『日本地名大事典』角川書店 平成3年発行
『京都府の地名』平凡社 昭和56年発行
『郷土資料事典・京都府』人文社 昭和52年改訂
『民俗学事典』大塚民俗学会編 弘文堂 昭和47年
『民俗探訪事典』山川出版社 昭和58年発行
凡 例
文章中、特に地域名を表記していない場合、全地域に共通した内容である。ただし、年中行事の章では、行事が行なわれる地威名を説明のあとに記載した。
例)~この日は神社に参る。〈神前〉